
この記事で分かること
- 破産しても取締役になれる(2006年施行の会社法で欠格事由から外れた)。開始決定で一度退任するが、選び直せる
- 手続き中は管財事件の住所の制限や資格の制限がある。建設業など、復権するまで許可が取れない業種もある
- 作ったあとに詰まるのは口座・カード・融資。口座とデビットカードから用意し、資金は自己資金か公庫の再挑戦支援資金
自己破産をしても、あとから会社を作ることはできます。2006年に施行された会社法で、破産した人を取締役の欠格事由から外したためです。ただし、時期によってできることが変わります。破産の手続きが始まると、そのとき就いている取締役の地位はいったん終わり、資格によっては就けない仕事も出てきます。こうした法律上の制限は、免責の確定で消えます。
法律の制限がなくなっても、信用情報の記録はしばらく残ります。そのため、会社を作ったあとに口座・カード・融資のところで詰まりやすくなります。この記事では、会社をたたんだあとにもう一度会社を作る社長に向けて、作れる理由、待ったほうがよい時期、作ったあとに準備するものを公的資料をもとに整理しました。
破産しても取締役になれる理由と、一度退任する場面
以前の商法では、破産して復権していない人は取締役になれませんでした。中小企業基盤整備機構のJ-Net21は「自己破産者でも再び会社は設立できますか?」という質問に、平成18年5月施行の会社法でこの制限が外れ、事業に失敗した人も起業して取締役になれると答えています。
同じ回答は、注意点も挙げています。会社と取締役の関係は委任の契約です。取締役が破産手続開始の決定を受けると委任が終わり、その人は取締役を退任します。ただし、株主総会を開いてすぐに選び直すことはできる、と説明しています。
社長が置かれる場面ごとに分けると、次の表のとおりです。
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 前の会社の取締役のまま、社長個人が破産する | 開始決定で取締役を退任する。会社が続くなら、株主総会で選び直せる |
| 前の会社も破産し、社長個人も破産する | 会社は破産の手続きで整理される。個人の手続きとは別に進む |
| 破産のあとに、新しい会社を作る | 会社法上、取締役になれる。時期による制限は次の節 |
「破産したら免責まで取締役に戻れない」と書いた解説もありますが、J-Net21の説明では、退任したあとに選び直すことができます。会社と個人の手続きの分け方は、法人破産と代表者の自己破産で説明しています。
手続き中と免責のあとで、できることが違う
会社法では取締役になれても、破産の手続き中には別の制限があります。盛岡地方裁判所の破産(自己破産)の手続についての説明資料によると、破産管財人が選ばれる手続き(管財事件)では、裁判所の許可なく住所を離れられません。自分あての郵便も、破産管財人を通してからでないと受け取れなくなります。破産管財人を選ばずに終わる手続き(同時廃止)には、この制限がありません。法律上の制限は、免責許可の決定が確定すると消える(復権)と説明されています。
千葉地方裁判所の破産・免責手続についてのよくある質問は、宅地建物取引主任者(現在の宅地建物取引士)、旅行業務取扱主任者、警備員、保険外交員などになれなくなり、免責が確定すれば解除される、と挙げています。
時期ごとに整理すると、次のとおりです。
| 時期 | 新しい会社を作ること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 破産を決めて弁護士に依頼したあと | 作る前に弁護士に伝える | 資本金に出すお金の出どころや、前の会社の取引先・設備を使うかどうかを、手続きの中で説明することになる |
| 手続き中(開始決定から免責の確定まで) | 会社法上は作れる。作るなら弁護士に先に伝える | 管財事件なら住所を離れるのに許可が要る。資格の制限がある仕事は、まだできない |
| 免責の確定のあと | 法律上の制限なく作れる | 信用情報の記録は残っているので、口座・カード・融資は別に準備する |
手続き中に会社を作ってよいかは、資金の出どころや前の会社との関係によって答えが変わります。この記事では判断できないので、作る前に依頼している弁護士へ確かめてください。前の会社の事業や財産を新しい会社に移す場合は、債権者の同意が前提になります。考え方は第二会社方式と法人破産の前にやってはいけないことで説明しています。
業種によっては、許可が取れない期間がある
会社を作れることと、その事業の許可が取れることは別の話です。許可が要る業種の中には、「破産者で復権を得ないもの」を欠格要件にしているものがあります。
たとえば建設業です。国土交通省の「許可の要件」は、欠格要件の最初に「破産者で復権を得ないもの」を挙げています。法人の場合は、役員等や政令で定める使用人の中に該当する人がいると許可されません。社長本人だけでなく、ほかの役員の誰かが復権前でも、許可は下りません。
鹿児島地方裁判所の破産手続説明書は、破産手続開始の決定を受けると、宅地建物取引業者、質屋、古物商などにはなれないと挙げています。J-Net21の回答も、建設業などの業法上の許可が取れない場合があるとして、許認可の専門家に相談するよう勧めています。始めたい事業に許可が要るなら、次の順で確かめてください。
- その業種の許可の窓口(都道府県や国の出先機関)の手引きで、欠格要件に「破産者で復権を得ないもの」があるかを見る
- ある場合は、免責の確定(復権)を待ってから申請する
- 復権を待てない事情があるなら、行政書士など許認可の専門家に相談する
会社を作る手続きは、破産していない人と同じ
設立の登記の手続きは、破産したかどうかで変わりません。法務局は、株式会社の設立の登記や取締役の就任の登記をするとき、取締役の本人確認証明書を付けるよう求めています。住民票の写し、マイナンバーカードのコピー、運転免許証のコピーなどです。申請書の書き方は、法務局の「株式会社の設立登記をしたい方」の案内と、記載例で確かめられます。
会社を作るときに、前の会社をたたんだ事情を書く欄があるかどうかは、今回確かめた登記の資料からは読み取れませんでした。事情を聞かれるのは、主に融資や許可の審査です。
作ったあとに詰まりやすいもの
詰まりやすいのは、会社を作ったあとです。銀行やカード会社がお金を貸すかどうかを見るときに、代表者個人の信用情報が見られる可能性があります。破産の記録は、信用情報機関によって5〜7年残ります(期間は自己破産後のクレジットカードの表で確かめられます)。
| 準備するもの | 詰まりやすい点 | 代わりの方法 |
|---|---|---|
| 法人口座 | 口座そのものは借入の契約ではない。ただし銀行が開設を断ることはある | 借入のなかった銀行で申し込む。必要書類は破産後の口座開設と法人口座 |
| 事業の支払い(SaaS・広告・仕入れ) | 法人カードの審査で代表者個人の信用情報を見るかは、カード会社が公表していない | 法人口座に付けたデビットカード。比べ方は自己破産後のクレジットカード |
| 社用車の高速代 | クレジットカードに付けるETCカードは作りにくい | デポジットで作るETCパーソナルカード。方法の比較はETCカードはブラックでも作れる? |
| 事務所・店舗 | 賃貸の保証会社の審査で何を見るかは、各社が公表していない | 審査が通らないときに備えて、契約の候補を複数持つ |
| 開業資金 | 銀行の融資は、信用情報の記録が残るあいだは難しくなりやすい | 免責のあとに貯めた自己資金。日本政策金融公庫の再挑戦支援資金(下の節) |
最初にそろえる順番は、法人口座、デビットカード、ETCです。口座がないとカードも引落しも付けられないので、会社の登記が済んだら、先に口座を申し込んでください。
開業資金を借りるなら、公庫の再挑戦支援資金
一度事業をたたんだ人を対象にした融資として、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」があります。公庫の案内では、新たに開業する人か開業後おおむね7年以内の人で、次のすべてに当てはまる人が対象です。
- 廃業歴等を有する個人、または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどがあること
- 廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること
前の会社の借入が整理されていること、前の会社をたたんだ事情を説明できることが条件になっています。融資の限度額・返済期間・保証の扱いは公庫の案内で確かめてください。条件によっては経営責任者の個人保証が必要になる、とも書かれています。
申込みでは、前の事業をなぜやめたかと、今回は何を変えるかを書類に書きます。余地学の公庫に前の会社のことを説明する書き込みシートを使うと、公庫の自己申告書と創業計画書に写せる文章を作れます。書いた内容はどこにも送信されません。
避けたほうがよいこと
- 家族や知人を名前だけの代表にして、自分が実際に経営する。許可の審査や融資の面談で、誰が経営しているかを説明できなくなります
- 破産を決めたあとに、前の会社の事業・設備・取引先を相談なく新しい会社へ移す。債権者を害する移し方は、手続きの中で問題になることがあります。先に弁護士に伝えてください
- 「破産していても融資が通る」とうたう有料の代行。公庫の融資は本人が申し込むもので、手数料を先に求められても応じないでください
よくある疑問
会社ではなく、個人事業主として始めてもよいですか
個人事業主として始めることもできます。会社を作るかどうかより先に問題になるのは、許可が要る業種かどうかと、口座とカードの用意です。売上が見えてから会社にする人もいるでしょう。どちらにするかは、税金の面も含めて税理士に相談してください。
免責のあと、何年待てば会社を作りやすくなりますか
法律上の制限は、免責の確定でなくなります。待つ年数で変わるのは信用情報の記録で、CIC・JICCは5年、全国銀行個人信用情報センターは7年が目安です。記録が消えたかどうかは、各機関に本人が開示を申し込んで確かめられます。それまでは、口座とデビットカードで回る形で始めてください。
前の会社と同じ仕事をしてもよいですか
同じ業種で始めること自体を禁じる決まりは、今回確かめた資料にはありませんでした。ただし、前の会社の取引先・設備・従業員を引き継ぐ形になる場合は、前の会社の破産の手続きとの関係を弁護士に確かめてください。許可が要る業種なら、復権してから申請してください。
参照資料と確認日
2026.10.02に確認。制度・費用・地域ごとの取扱いは変更されることがあります。本文中のリンクは該当する説明の出典です。


