
この記事で分かること
- 自己判断で資産や記録を動かす前に相談する
- すべての支払いを一律に止める指示ではない
- すでに行った取引も事実と資料を隠さず伝える
法人破産を考えたとき、「せめて親しい取引先に返したい」「片付けてから相談したい」と思うことがあるかもしれません。ただ、そうした行動で財産や記録が失われ、手続きや相手方にまで影響が出る場合があります。
資産を動かす、支払先を選ぶ、記録を消す、といったことをする前に、何をしようとしているかを弁護士に伝えてください。この記事は、すべての支払いを止めるよう指示するものではありません。個々の取引が違法かどうかを判断するものでもありません。
先に確かめたい6つの行動
| 行動 | 問題になりうる点 | 相談するときに伝えること |
|---|---|---|
| 1. 資産を渡す・売る・捨てる | 財産が減る。不適切な移転になるおそれ | 誰の物か、渡す相手、価格、理由、予定日 |
| 2. 特定の相手だけに返済する | ほかの債権者との関係、否認など | 借金の中身、相手との関係、支払日、金額 |
| 3. 帳簿・データを消す | 財産や取引を調べたり説明したりしにくくなる | 資料のありか、保存の状況、契約終了の予定 |
| 4. 新たな借入・受注をする | 返済や履行ができるか、相手への説明 | 契約の条件、お金の使い道、納品などができるか |
| 5. 会社と個人の資金を混ぜる | 誰のお金か、どちらがどちらに貸したかが分からなくなる | 口座、送金の経緯、立替などの根拠 |
| 6. 独断で契約・通知を進める | 資産の保全、従業員や取引先への影響 | 通知先、内容、期限、返却や解約の予定 |
1. 資産の名義変更、安値売却、廃棄
会社の車や設備を関係者に安く譲る、売掛金を個人口座に入れてもらう、価値がないと思って在庫を捨てる、といった行動は先に確かめてください。会社の財産かどうか、価格は適切か、処分する権限があるかなどを見ます。
破産法160条・162条等には、一定の要件のもとで過去の行為を否認する制度があります。否認とは、破産手続のためにその行為の効力を覆し、財産を取り戻すことなどを目指す仕組みです。「申立て前に名義を変えれば対象外になる」と考えるのは誤りです。
また、債権者を害する目的で財産を隠すなどすると、同法265条の詐欺破産罪などが問題になる場合があります。相談前だからといって、何をしてもよいわけではありません。
事業を譲渡して雇用などを残すことを検討するのと、財産を隠すのとは別のことです。続けたい事業があるなら、取引の条件・対価・手順を先に専門家へ相談しましょう。
2. 親族・代表者・特定の取引先だけへの返済
お世話になった相手への返済でも、否認の問題が生じる場合があります。返済の時期や会社の状態、相手がどう認識していたかなどによります。代表者が会社に貸したお金だけを先に返すことも、相談すべき取引です。
一方で、「破産を考えた後の支払いは全部違法」とまとめることもできません。税、賃金、家賃、事業の費用などは、債権の性質や状況がそれぞれ違います。ふだんの業務の判断をネットの一般的な情報で済ませず、具体的な支払予定表を見せて確かめてください。
相談のときは、支払先・請求の内容・金額・期限に加えて、すでに約束したことや、払わないとどうなるかも伝えましょう。
3. 帳簿、メール、会計データの廃棄・改変
大事な情報は、紙の帳簿や契約書だけでなく、会計サービス、メール、ネット銀行の明細、請求システムにも入っています。事業を止めるからといって一斉に解約すると、記録を取り出しにくくなることがあるので注意が必要です。
破産法40条は、会社の取締役などに必要な説明をする義務を定めています。記録を残しておくことは、申立てや管財人への説明のためにも大切です。
相談の前に、資料の保存先と管理している人を一覧にしておきます。データをダウンロードするなどして残す場合も、正当なアクセス権の範囲で行い、元のデータは書き換えないでください。欠けた帳簿を整って見せるための架空の取引や、領収書・契約日の偽装は避けましょう。
資料が足りないときは、相談書類の準備方法に沿って、「不足している」「所在を確認中」と正直に伝えてかまいません。
4. 返済・納品の見通しがない新規借入や受注
目の前の支払いを乗り切るための借入や前受金には、あとで返済や納品などをする義務が伴います。破産費用を用意するためであっても、条件や説明の内容によっては問題が生じる場合があります。
「今回だけ借りれば何とかなる」と契約する前に、お金の使い道、入金後の支払予定、返済の原資、納品やサービス提供の見通しを相談先に見せてください。決算・売上・お金の使い道について、事実と違う説明をして契約してはいけません。
ファクタリングを使う場合も、売掛債権が本当にあるか、すでに譲渡や担保設定がされていないかを確かめる必要があります。受け取る額と、その後の資金繰りがどうなるかも確かめます。この記事は、破産を考えている読者に商品の申込みを一律に勧めるものではありません。
5. 会社と個人の資金を混ぜる・後から帳尻を合わせる
個人が会社の支払いを立て替えていたり、会社と代表者の間で貸し借りがあったりする場合は、その経緯を資料で示します。これまでお金が混ざっていたなら、隠すために新たに送金するより、どこが分からないのかを説明してください。
相談用には「日付/会社側の口座/個人側の口座/金額/理由/根拠資料」の形で整理しておけます。この記録を作ることと、自分の判断で返済や相殺をすることは別です。
会社と個人の両方に借金がある場合の考え方は、法人破産と代表者の自己破産で整理しています。
6. 従業員・取引先への通知や契約処理を独断で進める
従業員や取引先への説明は必要ですが、時期・内容・担当者を決めてから進めます。「この債権だけ全額払う」「この設備を返す」「明日全員を解雇する」などと約束する前に、雇用・契約・財産への影響を確かめてください。
裁判所からの書類や、契約上の期限を放っておくのも避けましょう。届いた文書は封筒ごと保管し、期限を相談先に伝えます。直接連絡が来たときの答え方や、文書の転送先を決めておくと、混乱を減らせます。
すでに支払った・処分した場合はどうするか
支払いや処分をしたというだけで、すぐに犯罪や否認が確定するわけではありません。事情や要件を確かめる必要があります。反対に、自分で問題ないと決めつけて申告しないのも適切ではありません。
行った日、相手、金額、理由、そのときの会社の状態、残っている資料をまとめて弁護士に伝えてください。相手に返金を迫ったり、書類を差し替えたりすることも、先に相談しておきます。
相談前にできる、記録を残す準備
- 近いうちに来る支払・契約・裁判などの期限を並べる。
- 資産と資料のありかを整理する。
- 最近行った大きな取引と、これから予定していることをメモする。
- 法人破産に対応する弁護士に、急ぐ事情を伝えて相談する。
この準備は、資産や支払いの判断を自分だけで済ませるためのものではありません。専門家が具体的な事情をつかみ、次に何をするかを考えるための材料です。相談先と費用・準備の全体像から順に確かめられます。
参照資料と確認日
2026.09.17に確認。制度・費用・地域ごとの取扱いは変更されることがあります。本文中のリンクは該当する説明の出典です。


