
この記事で分かること
- 公庫には一度事業をたたんだ人のための融資の枠がある。破産歴だけで対象外とは書かれていない
- 公庫は申込みで信用情報を照会する。最初の相談で、前の事業といまある借入を自分から先に伝える
- 前の事業と借入は、自己申告書、創業計画書の「経営者の略歴等」と「お借入の状況」の3か所に書く
日本政策金融公庫は、破産したことがあるだけで融資の対象から外すとは書いていません。一度事業をたたんだ人のための融資の枠もあります。公庫の案内で分かれ目になっているのは、前の事業の借金がどう整理されたかと、事業をやめた事情を説明できるかの2つです。
そのうえで、申し込む人がいちばん気をつけることは、隠さないことです。公庫の借入申込書には、申込人の信用情報を照会して返済能力の調査に使う、という同意の条項があります。余地学の編集長も、公庫に相談したときに借入の有無を確かめられました。この記事は、会社をたたみ、自己破産をしたあとに公庫で開業資金を借りたい社長に向けて書いています。使える制度、相談で伝えること、書類のどの欄に前の事業を書くかを、公庫の書式と案内をもとに整理しました。
一度事業をたたんだ人のための融資がある
公庫の国民生活事業には、「新規開業・スタートアップ支援資金(再挑戦支援関連)」があります。新たに事業を始める人か、事業を始めておおむね7年以内の人で、次のすべてに当てはまる人が対象です。
- 廃業歴等を有する個人、または廃業歴等を有する経営者が営む法人であること
- 廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込み等であること
- 廃業の理由・事情がやむを得ないもの等であること
使い道は、事業を始めるため、または始めたあとに要る設備資金と運転資金です。前の事業の借金を返すための資金も含む、と書かれています。案内にある数字は次のとおりです。
| 項目 | 公庫の案内 |
|---|---|
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金は20年以内、運転資金は15年以内(どちらも据置期間5年以内) |
| 担保・保証人 | 希望を聞いたうえで相談して決める |
限度額は上限で、実際に借りられる額は審査で決まります。公庫には「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」という別の案内もあり、限度額(直接貸付7億2千万円)や据置期間(2年以内)の書き方が違います。事業の規模で使う窓口が分かれているとみられるので、どちらに当たるかは相談の段階で確かめてください。
破産した人は、2つ目の条件をどう見られるか
2つ目の条件は「前の負債が新しい事業に響かない程度に整理される見込み」です。前の借金がいまどうなっているかで、書類で示すことが変わります。下の表は、公庫の条件に照らして余地学が整理したもので、公庫が示した判断基準ではありません。
| 前の事業の借金 | 書類で示すこと |
|---|---|
| 全部返した | 前の借入が残っていないこと |
| 破産して免責が決まった | 法的な手続きで整理が済んだこと。免責の決定を確かめられる書類を手元に置く |
| 残っていて、毎月返している | 返済を続けていることと、新しい事業の収支にその返済を含めていること |
| 残っていて、返せていない | 先に、債権者や弁護士と返し方を決める。決めないまま申し込むと、条件を説明しにくい |
前の事業で公庫からも借りていて、破産で返せなかった場合の扱いは公表されていません。借入申込書には「当公庫とのお取引」の有無を書く欄があります。申し込む前に、窓口で最初に聞いてください。
3つ目の条件の「やむを得ない」の基準も公表されていません。売上が落ちた、取引先が倒れた、借入ができなくなった、といった事情を、起きた順に数字で説明できるようにしておきます。
最初の相談で、借入は自分から先に言う
相談の入口は、公庫の事業資金相談ダイヤル(0120-154-505、平日9時〜19時)か、予約制のオンライン・窓口相談です。取引のある信用金庫などから公庫を紹介してもらう道もあります。編集長は、直接相談したことも、信用金庫経由で紹介してつないでもらったこともあります。
どちらの入口でも、前の事業のことと、いまある借入は、聞かれる前に自分から伝えてください。公庫の借入申込書の記入例には、個人信用情報機関に申込人(法人なら代表者本人)の信用情報を照会し、返済能力の調査に利用する、という条項があります。条項には、シー・アイ・シー、全国銀行個人信用情報センター、日本信用情報機構の名前が出てきます。照会した記録を審査でどう扱うかは公表されていません。ただ、面談の担当者は記録を見たうえで話していると考えておくほうが安全です。
編集長が公庫で経験したことを、本人の言葉のまま載せます。
公庫もちゃんと与信審査でしっかり調べてくるので、借入があるならはっきり伝えないとダメです。試されます、カマかけられたりもします。『ここで借入がないって仰ったらどうしようかと思いましたよ』って言われました。私は何も知りませんみたいな顔で質問してきますが、相手はもう知り尽くしていると思ったほうが吉です。嘘をつくことが一番のNGです。
カードローンの残りや、家族に話していない借入も同じです。小さい額でも、伏せたことが分かると、額よりもそのことのほうが説明しにくくなるおそれがあります。破産の記録が残っている人は、相談の前に各機関に本人開示を申し込み、何が載っているかを確かめておくと、面談で事実どおりに答えられます。記録が残る期間の目安(CIC・JICCで5年、全国銀行個人信用情報センターで7年)は、自己破産後のクレジットカードの表のとおりです。
前の事業と借入を書く3か所
前の事業と借入のことは、書類の3か所に書きます。どれも公庫の「各種書式ダウンロード」に書式と記入例があります。
自己申告書(事業経営の経験のある方)
創業計画書とは別の書式で、聞かれるのは前の事業についての次のことです。記入例の欄をもとにまとめました。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 経営していた時期 | 何年何月から何年何月まで |
| 業種・役職 | 役職は代表取締役・取締役・その他から選ぶ |
| 廃業の理由 | 売上不振(赤字累積)、取引先の倒産(売掛金等のこげつき)、過剰な設備投資、経営ノウハウの不足、資金調達が困難、地主等からの立ち退き要求、経営者の健康問題、その他から選ぶ |
| 清算の方法 | 任意整理か法的整理か |
| 前の事業の借入金 | 「以前経営していた事業に関する借入金等(保証債務を含む。)は残っていますか。」残っていれば借入先名、借入金残高、毎月の返済金額 |
借入金の設問に「保証債務を含む」とある点に気をつけてください。会社の借入に付けた保証が残っている人は、ここに書きます。
同じ記入例には、出す書類の注記もあります。事業を経営していたことが分かる資料として、廃業届、解散登記・清算結了登記、閉鎖謄本、前の事業の確定申告書など。前の事業の借入金が残っているなら、残高の分かる支払明細書や残高証明書です。破産した人は、免責の決定の写しも一緒に持っていくと、整理が済んだことを示しやすくなります(記入例には書かれていない、余地学の考えです)。
創業計画書の「経営者の略歴等」
創業計画書の記入例では、この欄に「過去の事業経験」の選択肢が3つあります。会社をたたんだ人は「事業を経営していたことがあるが、既にその事業をやめている。」を選びます。
選択肢のほかに、略歴を自分の言葉で書く欄があります。前の事業で何が起きたかと、今回は何を変えるかを書くのは、この欄です。「景気の悪化で売上が落ちたため」のような書き方では、事情が伝わりません。何年に何が起き、売上や借入がどう変わり、どう判断したかを、起きた順に数字で書きます。
創業計画書の「お借入の状況」
見出しは「お借入の状況(法人の場合、代表者の方のお借入)」です。会社で申し込む場合も、書くのは社長個人の借入です。お使いみちは事業・住宅・車・教育・カード・その他から選び、お借入先名、お借入残高、年間返済額を書きます。
カードの借入も、ここに書く欄があります。相談で伝えた借入と、この欄に書いた借入が食い違わないようにしてください。
書き込みシートで下書きを作る
自己申告書の「廃業の理由」と、創業計画書の「経営者の略歴等」は、どちらも前の事業のことを書く欄です。余地学の公庫に前の会社のことを説明する書き込みシートは、この2か所に写せる文章を作る道具です。前の借金の状態、やめた理由、起きたこと、今回変えることを書き込むと、自己申告書と「経営者の略歴等」の形に並びます。入力した内容はどこにも送信されません。
下書きができたら、相談の前に一度声に出して読んでみてください。面談では、書いたことを口で説明することになります。
申し込む順番
公庫の「創業予定の方」の案内では、手続きは次の順に進みます。
| 順番 | すること | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 相談 | 事業資金相談ダイヤル、予約制のオンライン・窓口相談 |
| 2 | 申込み | インターネット(24時間受付)か郵送 |
| 3 | 面談 | 資金の使い道と事業計画を聞かれる。店舗や事業所の予定地を訪ねることもある。オンラインでも受けられる |
| 4 | 融資 | 決まったら契約の手続きの案内があり、送金される |
| 5 | 返済 | 原則は月ごとの返済 |
同じ案内で主な書類とされているのは、創業計画書、設備資金を申し込むなら見積書、法人なら登記簿謄本、本人確認書類(運転免許証など)、許可が要る事業ならその許可証です。審査にかかる期間は、公庫の創業支援のQ&Aによると平均3週間程度です。
融資が決まるまでの事業の支払いは、借入の機能のない口座とデビットカードで回してください。会社を作ったあとの準備の順番は自己破産後でも会社は設立できるにまとめました。
避けたほうがよいこと
前の事業のことや、いまある借入を伏せて申し込むのはやめてください。公庫は信用情報を照会すると申込書に書いており、事業経営の経験がある人には自己申告書も求めています。あとで事実と違うことが分かれば、審査で説明がつかなくなります。
「破産していても公庫の融資が通る」とうたう有料の代行にも注意してください。申込みは本人が公庫にするもので、相談も公庫の窓口で受けられます。計画書づくりを専門家に頼むなら、何をするかと費用を先に書面で確かめます。
よくある疑問
免責から何年たてば申し込めますか
公庫は、免責から何年という基準を公表していません。制度の「事業を始めておおむね7年以内」は、新しい事業を始めてからの年数で、破産からの年数ではありません。前の借金の整理が済んでいて、事情を説明できるなら、年数を待たずに相談してかまいません。
破産の記録が残っていると、必ず断られますか
公庫は、信用情報の記録をどう判断に使うかを公表していないので、必ず断られるとも、通るとも言えません。分かっているのは、照会はされるということです。記録があることを前提に、前の借金の整理と、やめた事情を説明できるように準備してください。
保証人や担保は要りますか
国民生活事業の案内では、担保・保証人は希望を聞いたうえで相談して決めるとされています。別の「再挑戦支援資金」の案内には、一定の条件で経営責任者の個人保証が要る、という記載があります。申し込む枠の案内で確かめてください。
個人事業と会社のどちらで申し込めばよいですか
どちらでも申し込めます。法人なら登記簿謄本が要ります。会社で申し込んでも、創業計画書の「お借入の状況」に書くのは社長個人の借入です。会社を作るかどうかは、許可が要る業種か、口座やカードをどう用意するかも含めて決めてください。考え方は自己破産後でも会社は設立できるで説明しています。
参照資料と確認日
2026.10.02に確認。制度・費用・地域ごとの取扱いは変更されることがあります。本文中のリンクは該当する説明の出典です。


